「前回大会では、打ち上げの4時間前に天気が急変。雷雨が発生しました。最新の気象データを専門家が解析し、打上時間には落雷の恐れはないとのことで開催できましたが、今年は最悪の事態を想定し、新しい防雷システムで備えました」
立川まつり国営昭和記念公園花火大会実行委員会 様

74万5千人が訪れた7月26日の立川花火大会。1954年の開始から64回を数える歴史の中で、直近10回中3回が台風や雷雨により中止・延期を余儀なくされるなど、天候リスクが高まる。
実行委員会事務局である立川商工会議所は、今年の開催に向け、屋外イベントの落雷対策を念入りに調査。広大な昭和記念公園にPDCE避雷球による避雷エリアを設け、大会を無事開催した。 実施に当たった立川商工会議所 事業課 統括課長の田中さまにお話を伺いました。
【導入製品:PDCE-Magnum(3基)】
[立川まつり国営昭和記念公園花火大会実行委員会]
立川まつり国営昭和記念公園花火大会を主催し、構成団体は、立川市、立川商工会議所、(一社)立川観光コンベンション協会、立川市商店街振興組合連合会、(公社)立川青年会議所、国営昭和記念公園管理センター。観覧会場となる公園を管轄する国土交通省関東地方整備局国営昭和記念公園事務所と、同公園に隣接する陸上自衛隊立川駐屯地が特別協力している。
当花火大会では、東京では珍しい巨大な一尺五寸玉や、全国の花火の競技会で優秀な成績を得た花火を再現した“芸協玉”など約5,000発が打ち上げられる。広大な国営公園でレジャーシートを敷いて観覧することもできる、多摩地域の住民に長く愛される夏の風物詩である。
立川花火大会公式HP https://hanabi.tokyo-tachikawa.org/
70万人ものお客さまを安全にお迎えし、お帰しする難しさ
各地でゲリラ雷雨が頻発した中での2024年大会
昨年夏はゲリラ雷雨が各地の花火大会を中止に追い込んだり、ここ立川市でも落雷による被害が頻発したりと、大きなインパクトを残しました。わたくしどもの大会も、打ち上げ4時間前に天気が急変。メイン会場は局地的な雷雨に見舞われました。気象レーダーは、立川市の西側に発達する雨雲を映し出しており、隣接する昭島市では停電したという情報も。雨は20分ほどで止みましたが、打ち上げ2時間前の17時にまた稲光が見られ、より大きな雨雲が近づいていました。何十万人というお客さまが会場にお越しくださる中、実施するか中止するか。難しい判断を迫られました。
10年前から、気象データの分析を専門家に委託
しかし17時の時点で、気象予報士の先生が、打ち上げ時間の30分前には雷雨の可能性はなくなり、その後も雨雲の近接はないと分析してくださいました。多くのお客さまを安全にお迎えしお帰りいただく目途が立ち、中止の選択肢は消えました。
2013年の大会では開会セレモニー直後、いよいよ1発目が打ち上るというときにゲリラ雷雨が発生しました。中止を余儀なくされ、数十万人のお客さまがずぶ濡れのまま立川駅に引き返し大混乱が生じました。その苦い経験から、翌年(2014年)より気象予報士の先生にご協力をお願いしお力添えをいただいています。 先生には大会1週間前から天候に関する情報提供をいただくほか、大会当日は早朝から大会終了まで現場に詰めていただいております。様々な気象に関するデータを収集・分析し、常に最新の情報をご提供くださっています。
昨年も事故は起きなかったが、今年は分からない
昨年は打ち上げまで天候に翻弄されヒヤヒヤする経験を味わいましたが、おかげさまで雨雲が去り、無事5,000発の花火を皆さまにご覧いただくことができました。
打ち上げ時間は60分ですが、花火の仕込みに1年。我々実行委員会も半年以上前から準備に取り掛かります。当日は、実行委員会、警察、消防、設営関係者のほか、警備員、運営スタッフ等約2,000名が携わる大プロジェクトです。何より、毎年お客さまに喜んでいただきたい一心でやっておりますので、「中止」というのは口にするのも恐ろしい言葉です。それでも、正しい中止の判断がなされたことで、63回の歴史で事故は1件もありません。
しかし、まさに青天の霹靂というような落雷事故が各地で起きています。過去になくてもこれからはあるかもしれない。昨年は運が味方してくれただけで、今年もこのままでいいとは考えられませんでした。
国土交通省からも“対策”を求められる
わたくしたちが落雷対策の必要性を痛感したように、会場の国営昭和記念公園を管轄されている国土交通省(関東地方整備局国営昭和記念公園事務所)さまからも何か対策はできないものかと打診されました。
さて、いったいどんな対策ができるというのか…。対策の手がかりは無し。ヒントを探して、花火大会の落雷対策をネットで調査しました。
多くの関係者の尽力で続けられてきた立川花火大会であるが、難しい主催者判断を迫られることも
年 | 気象面の出来事、対策 |
2013 | 開催セレモニー後、打ち上げ寸前の雷雨により当日中止 |
2014 | 気象予報士による気象情報提供・分析を開始 |
2015 | |
2016 | |
2017 | |
2018 | [60回記念大会]台風が関東地方直撃の予報により大会2日前に中止を決定。 各方面からの要望を受け11月に開催 |
2019 | 台風が関東地方近接の予報を受け、大会2日前に順延開催を決定 |
(2020~2022 新型コロナの影響により開催見送り) | |
2023 | |
2024 | 打ち上げ4時間前に近隣市でゲリラ雷雨発生。2時間前にも稲光 |
2025 | PDCE避雷球による防雷エリアを設置 |
天気はどうしようもないが、落雷は新システムで回避できそうだ!
1台1千万円以上?!
「花火大会,屋外イベント,落雷対策…」で調べても、どの大会も迅速かつ安全に避難いただくという指針がほとんど。各地で主催者の皆さんが苦慮されているようでした。落雷についての研究発表資料なども読み漁りましたが、解決策にたどり着けない。会う人ごとに落雷対策や避雷針について聞いて回っていたところ、ある会社の社長さんから落雷抑制システムズの製品パンフレットを手渡されました。
「なんでも落雷をガードする避雷針らしいが…。1台1千万円以上するらしいよ」
そんな額はとても工面できない。それに「避雷針」は雷を誘い込むもの。それを大勢のお客さまの中に置いて、落としちゃマズくないか?
しかも、機能も、価格も、本当のところが分からない。対策を求め、藁にもすがる思いで落雷抑制システムズのホームページにアクセスしました。

1992年より大会に携わり、現場を誰よりも知る
立川商工会議所 事業課 統括課長の田中さま
雷を呼び込まない避雷針の仕組みに、「早速それでやってみよう」
PDCE避雷球の画期的な仕組みに驚きました。新しいシステムに合点がいき、自衛隊や鉄道などへの導入実績を見てこれなら大丈夫だと確信しました。
どうしても取り入れたいと、大会全予算の5%程度までなら割く算段で専務理事に相談しました。「早速それでやってみよう」と背中を押され、レンタル対応が可能なエイトエージェンシーさんに電話を入れたのです。
花火大会は手掛けたことは無いとのことでしたが、オリンピックや大規模野外フェスなどでの実績が豊富な担当者さまに、「全力で対応します!」と快諾してもらえました。早々に現地調査をいただき、見積額は予想より随分下。「桁違いでは?」と思わず口にしてしまったほどです。
公園全域を保護するのではなく、要所に避雷エリアを設ける
現地を見ていただく以前は、広さ東京ドーム35個分の公園を避雷球で取り囲むのか…、そこまでの数を立てられるのか…と心配していました。最終的には、メイン会場となる みんなの原っぱ、ふれあい広場、立川口駐車場入口の3カ所に、保護範囲半径100mの大型機種を設置することに決定。公園の近隣施設でもPDCE避雷球が導入されている事が分かったため、設置場所を決めるにあたりそれらを考慮いたしました。
国交省に了承を得て
新システムの機能や保護エリアの設計については、もちろん国土交通省(関東地方整備局国営昭和記念公園事務所)さんに了承いただいた上で設置を進めました。警察、消防にも事前に報告しています。
エイトエージェンシーさんには、昭和記念公園ならではのご苦労もお掛けしました。園内は落雷の標的となる高い樹木が多く、みんなの原っぱ中央のシンボルツリー(ケヤキの木)より高い地上27mの位置にPDCE避雷球を設置いただくため、大型クレーン車を手配いただきました。また園内に車1台を乗り入れるのでさえ許可が必要な国営公園です。クレーン車の轍が残らないよう、舗装された園路から設置場所となるシンボルツリーに向かって100mの芝地を養生いただき車両を乗り入れていただきました。炎天下の中、本当にお手数をお掛けいたしました。
こうしてPDCE避雷球をレンタルして臨んだ今年の花火大会は、晴天の下で無事に開催する事ができました。
花火大会をはじめ屋外イベント関係者の皆さんに勧めたい
今後この新しい落雷対策システムを、各地の花火大会主催者は勿論の事、多くの方が集まる屋外イベントを主催される関係者の皆さんにも情報共有してきたいですね。
近年、我が国では豪雨災害が激甚化・頻発化していますが、私ども実行委員会ではこれからも最新・最善の対策を取り入れ、安心安全な大会運営に努めて参りたいと思っています。皆さま、次回の大会もどうぞご期待ください。
設営にあたった(株)エイトエージェンシー 担当の八里氏より
イベント会場が突然の雷雨に見舞われると、主催者が予期しなかった事態に陥りがちです。
来場者は雨をしのごうと落雷の危険がある木やテントの下に集まりますし、
建屋に次ぐ安全な避難場所として想定していた大型バスが、
防犯のためにドアにカギがかかっていたという事案も発生しています。
シミュレーションしきれない事態に備え、
事前により多くの避雷エリアを確保していただきたいです。

(取材日:2025.08.18)