「国宝を預かるわたくしたち。
新しい雷害対策を補助金で実現」
武蔵御嶽神社 様
天空の神社は、雷の通り道にあった――。奈良時代に開かれた山岳信仰の霊山「武蔵御嶽神社」は御岳山の山頂に鎮座する。霧の御坂ともいわれるその場所は、樹齢400年超の杉や檜に囲まれ初夏でも肌寒い。夏から秋にかけて奥多摩の方角から黒い雷雲が流れて来たならば、空を切り裂く閃光と雷鳴の衝撃に威圧される。地上ではめったに見られない火の玉現象「球雷」も毎年数回は目撃される、雷害が異次元の空間なのだ。2022年11月の大きな落雷被害から4カ月後には補助金を活用しPDCE避雷球を導入された、神職の天野宣子様にお話を伺いました。

【導入製品:PDCE-Magnum(1基)】
[武蔵御嶽神社]
東京都青梅市の御嶽山にある神社。紀元前から霊山として信仰の対象であったといわれており、天平8年(736年)に僧の行基が像を安置して以来、中世に関東の修験の中心となり、江戸時代には「御師(おし)」(現在は神職)の布教により武蔵・相模に“講”が組織され、人々が参詣する場となる。武蔵国の支配者や武士たちも武具を数多く奉納。そのうち、鎧と鞍の2件が国宝に指定されている。
盗難除け、魔除け、豊作の神と広く信仰されており、現在も伝統を受け継ぐ御師たち(社家31軒)が共同運営により参詣と修業の場を守っている。昭和27年に神社本庁の所属を外れて以降、単立神社である。「おいぬ様」として親しまれる日本狼を祀ることから、ペット連れの参拝客も多い。
公式ホームページ http://musashimitakejinja.jp/

初日の出

御岳登山鉄道ケーブルカーで滝本駅→御岳山駅まで約6分。そこから徒歩25分で山頂へ。両駅にも2018年よりPDCE避雷球が設置されている

本殿

日の出祭

日本武尊が祀られる男具那社
稲妻が横に走る標高926mの山中
都指定有形文化財(国指定重要美術品)の旧本殿ほか、宝物殿には国宝も
敷地北側の社殿のほか、宝物殿には国や東京都、市の指定文化財されるご神宝の数々を納めております。宝物は、中世に武蔵国の武士たちから奉納された大鎧や太刀、具足といった見事な武具です。武蔵国という国名は、日本武尊が着用の武具をこの地に納めたことに由来するといわれておりますが、宝物をご覧いただけば、悠久の歴史を身近に感じていただけるのではないでしょうか。

毎年、何度も落雷に見舞われて
御岳山は、夏から秋にかけて雷が多く発生します。東京スカイツリーよりも雲に近い山の雷は、麓の里とは全く威力が違います。境内に雷雲が低く垂れこめたときは、稲妻が横に走り、火の玉が弾けます。その瞬間、バーンという耳をつんざく爆発音がします。これは「球雷」という、落雷に伴う発光現象だそうです。わたくしは1シーズンに2,3回は体験します。御嶽山は雷が多い場所なのですね。
本殿から下った場所にある御師集落でも屋根に落ちた雷光が樋を走って窓を横切るなど、平地にはない現象が見られます。
4本だった避雷針をPDCE1本に
【雷が落ちない】【避雷針】【電鉄】などのキーワードでPDCEがヒット
雷が多い場所ですので、立木に落雷したり、誘導雷で機器が壊れたりといった雷害は毎年のように発生していました。しかし2022年秋、大きな落雷で防犯・防災機能が全滅したのです。
実は以前に、電鉄関係で雷が落ちない装置があるらしいと耳にしていました。その言葉を頼りにネット検索。PDCEを扱うエイトエージェンシーさんにたどり着きました。
早速、エイトエージェンシーさんと避雷針工事の専門業者さんが境内を調査し、建物への直撃雷を防ぐ設計図が提示されました。それは、本殿横の避雷針をPDCEに交換し、立木3カ所の避雷針は取り外すというものでした。
「本当に落雷を防ぐことができるなら、それに越したことはない」という職員らの総意で導入が承認されました。
「呼び込むもの」と「呼び込まないもの」
立木の避雷針を取り外すことについては、落雷を呼び込まない設備の近くに呼び込む避雷針を残さない方がよいということで、皆が納得しました。避雷針を設置してからかなりの年数になりますし、実際に効果が得られているのか分からない。相いれないものを残すより、外した方がいい、という結論です。
宝物殿をはじめとする私たちが守りたいものはPDCEの保護エリアに収まる設計ですので、これまで4本だった避雷針をPDCE1本にすることにしました。
落雷保護エリア(立面図)

落雷対策に補助金を活用
東京オリンピックの導入実績が後押し
落雷被害を受けた機器の取替や、PDCEなど新型避雷設備の導入には、東京都と青梅市の補助金を活用させていただきました。申請に際してはPDCEに関する資料をさまざまご提出しましたが、東京オリンピックでの導入実績は訴求力があったと感じています。

PDCE設置後、2回の夏を経て
空中で弾けるような「球雷」はごくたまに見られますが、それが保護角の内なのか外なのかは分かりません。被害は減っていると感じます。2023年7月に御岳山ではたびたび落雷があり機器が故障しましたが、誘導雷が原因と思えるもので修理で治る程度のことでした。
樹木の落雷被害とは
2024年6月には、山中の御神木から火の粉が出ていると登山客から通報がありました。雷が命中し、木の中が燃えていたのです。木を倒して消火しましたが、寒い御岳山では木の成長が遅く年輪が詰まっています。そんな木の真ん中を燃やすなんて、雷の威力をまざまざと感じました。
以前、鳥居のそばの階段に近い樹齢400年の杉の大木が傾いてきたため切り倒したことがあります。木に長年携わってきた業者の方によると、この木は6,7回落雷を受けた跡が見られました。
自然を敬う信仰心が受け継がれる場所をこれからも
遠くで雷鳴が聞こえたら、ウェザーニュースや気象庁のサイトで雷雲の動きを確認し、参拝者に建屋に入るようアナウンスしています。雷との共存が宿命であるこの場所で、対策を過信せず、今後も新しい落雷対策については感度高く情報収集したいと思っております。
自然を敬う人々の信仰心が今も脈々と受け継がれていきますように。



(画像協力:武蔵御嶽神社様/取材日:2025.06.02)