雷サージ対策とは?SPDの仕組みと企業に必要な導入ポイント

雷は自然災害の中でも予測が難しく、被害が発生すると甚大な損失を招きます。その中でも「雷サージ」と呼ばれる電圧の急上昇は、企業の電子機器やインフラに深刻なダメージを与える大きな脅威です。本記事では、雷サージの仕組みとSPD(サージ防護デバイス)による対策について、専門知識がない方にも分かりやすく解説します。経営者や管理職の方が自社の事業継続を守るために、どのような投資判断をすべきかの参考にしていただけます。

雷サージとは?仕組みと被害の実態

雷サージとは、落雷や電力系統の異常によって一時的に電圧が急上昇する現象です。
 家庭用コンセントは100Vで設計されていますが、落雷時には数千〜数万ボルト規模の電圧が電線を伝わり、電子機器へ侵入することがあります。

  • ・誘導雷:近くに落雷した際、電磁誘導で電線や通信ケーブル、金属製の設備に電流が流れ込む現象。雷雲が近接しただけでも電線にたまっていた電荷が流れ込むことも
  • ・逆流雷:建物や地面への直撃雷によって、雷サージが地表を流れてアース線から建物に逆流して侵入する現象

これらは建物の内部に侵入し、精密機器を故障させる主な原因となります。

雷サージがもたらすリスク

雷サージの影響は単なる機器の故障にとどまりません。

  • 事業停止リスク:停電やシステム停止により、業務が中断する
  • 修理・復旧コスト:サーバーや制御装置の修理費は高額
  • 信用低下:顧客や取引先への影響で企業の信頼が損なわれる
  • 安全リスク:制御装置の誤作動により事故につながる可能性もある

たとえば、ある製造業の工場では落雷によるサージが制御盤に流れ込み、復旧に3週間、損害額は数千万円規模にのぼったケースがあります。企業にとって雷サージ対策は「保険」ではなく事業継続計画(BCP)の一部として捉えるべきです。

SPDとは?雷サージを防ぐ仕組み

SPD(Surge Protective Device)は、雷サージから電子機器を守る装置です。

仕組みはシンプルで、サージ電流が流れ込むとSPDが働き、電流を安全に大地へ逃がします。これにより、接続されている機器には過電圧が届かず、故障を防ぐことができます。

SPDの特徴

  • ・設置が比較的容易(分電盤や配電盤に組み込み可能)
  • ・一度作動すると交換が必要な場合がある
  • ・単独ではなく複数段階(建物入口・分電盤・機器近く)で設置すると効果的

SPDの種類と設置ポイント

SPDには国際規格で分類されたクラスⅠ〜Ⅲがあります。

  • クラスⅠ:直撃雷に近い大きなサージに対応。建物入口や受電設備に設置。
  • クラスⅡ:分電盤やフロアごとの配電盤に設置。建物内部に侵入したサージを抑制。
  • クラスⅢ:パソコンや通信機器のコンセントなどすぐ近くに設置。残留サージをさらに吸収。

このように、段階的に配置することで「多層防御」を実現し、雷サージの影響を最小化できます。

産業用SPD

SPDの種類と設置ポイント|産業用SPD

左)配電盤用SPD (右)電源用SPD

(左)配電盤用SPD (右)電源用SPD

LAN用SPD

LAN用SPD

SPDだけで十分?対策の限界と併用の重要性

SPDは強力な防御手段ですが、万能ではありません

  • ・SPDの容量を超える電流が流れた場合は効果なし。極めて大きな雷サージ(直撃雷レベル)では、SPD自体が故障する可能性がある
  • ・長期間使用すると劣化し、性能が低下する
  • そのため、以下のような多重防御が推奨されます。
  • ・UPS(無停電電源装置)と組み合わせて電源を安定化
  • 気象情報システムで落雷リスクを早期察知
  • ・落雷抑制装置(PDCE避雷球など)を併用し、雷を呼び込まない

導入事例と企業メリット

実際に雷サージ対策を導入している事例からも、その重要性が伺えます。

受電設備では、雷サージによりキュービクル内の計器用変圧器(VT)や高圧気中開閉器(PAS)が焼損する事故が多発しています。関西電気保安協会の事例では、事故後にSPD(避雷器)を設置することで再発防止を図りました。

データセンターでは、SPDを多層的に配置する設計が標準化されており、電気設備学会の技術報告でも雷電磁界の影響低減効果が確認されています。工場では、半導体製造施設での落雷による生産停止(再稼働に6日間)など、深刻な被害事例が報告されており、SPD導入によるリスク低減が重要視されています。

公共施設や文化財では、武蔵御嶽神社(国宝)が補助金を活用して落雷抑制システムを導入するなど、歴史的価値のある建物を守る取り組みが広がっています。文化庁も文化財建造物への適切な雷保護対策の必要性を指針で示しています。

導入メリットのまとめ

  • ・機器の故障リスクを軽減
  • ・復旧コスト削減
  • ・事業停止リスクの低減
  • ・顧客・取引先への信頼性向上

SPDは数万円から導入可能で、被害額と比べれば圧倒的に安価な投資です。さらに、自治体によっては補助金の対象になる場合もあります。

まとめ:雷サージ対策は「事業継続への投資」

雷サージは目に見えない脅威ですが、その被害は甚大です。
 SPDを中心に、複数の対策を組み合わせることで、企業はリスクを最小限に抑えることができます。

経営者・管理職にとって、雷サージ対策は「不要な出費」ではなく「事業継続への投資」です。
 雷は避けられない自然現象だからこそ、備えを整えることが企業の責務といえるでしょう。